※本記事には広告(A8.net・Amazonアソシエイト)が含まれます。制度の内容は公的資料をもとに整理していますが、個別のケースについては必ず主治医・薬剤師・ケアマネジャーにご確認ください。


一緒に住んでいる母が、少し細くなった気がして、声をかけました。

食べる量は変わらないよ

そう言う母は、血糖値が高くて、毎日ごはんを計りながら食べています。 言われた通りに、きちんと。

——このことがきっかけで、いま在宅の現場で、高齢者の栄養がどうなっているのかを、あらためて調べてみました。訪問看護師として20年、人のお宅では見てきたことなのに、自分の家では気づくのが遅れました。

そして、ちょうど2026年6月、栄養剤の保険のあつかいが変わっていたことも分かりました。「エンシュア、6月から出してもらえなくなるかもしれない」——そう言われて戸惑っているご家族も、いらっしゃると思います。

ただ、「保険が使えなくなった」というのは、少し違います。

この記事では、何がどう変わったのかを公的な資料にもとづいて整理したうえで、もし保険で出せなくなったとき、家では何を選べばいいのかを、訪問看護の現場で見てきたことからお伝えします。

そして最後に、いちばんお伝えしたいことを書きます。制度が変わるより前から、家の中にはもっと大きな問題があったという話です。


この記事でわかること

  • 2026年6月、経腸栄養剤の保険給付は何がどう変わったのか → 結論から言うと、「保険が効かなくなった」のではなく「処方の理由を書いてもらう必要ができた」です
  • 専門の学会が、この変更に何を懸念しているか(褥瘡・サルコペニア・在宅復帰)
  • 「もう歳だから」と言われたときに、何と返せばいいか(そのまま使える言葉)
  • 現場で使われている栄養補助食品3つと、成分ではない選び方
  • 傷(褥瘡)がある方は、目的が変わること(消費者庁が許可した、国内で唯一の食品)
  • 重いので、買い方の話

目次から、必要なところに飛べます。 制度のことだけ知りたい方も、選び方だけ知りたい方も、そこからどうぞ。


2026年6月、何が変わったのか

2026年度(令和8年度)の調剤報酬改定で、「栄養保持を目的とした医薬品の保険給付は行わない」という原則が示されました。対象になるのは、エンシュア・リキッドやラコールNFといった経腸栄養剤です。

これだけ聞くと「もう出してもらえない」と思ってしまいますが、例外が定められています。

保険で給付される場合

  • 手術後の患者さん
  • 経管投与(胃ろう・経鼻経管)の患者さん
  • 医師が、栄養保持を目的とした投与が必要と判断した患者さん (低栄養状態、終末期、クローン病やベーチェット病などが例として挙げられています)

大事なのは「理由を書けば出せる」ということ

3つめの条件がポイントです。医師が必要と判断すれば、口から飲む場合でも保険給付の対象になり得ます。

ただし条件があって、処方理由が処方箋に記載される必要があります。理由の記載がない場合、薬局から医師へ問い合わせ(疑義照会)が行われることになります。

つまり——「保険が効かなくなった」のではなく、「理由を書いてもらう必要ができた」。 いまのところ、そう理解するのが正確です。

まずやることは、諦めることではなく、主治医に相談することです。「6月以降も続けられますか」と、そのまま聞いてみてください。

⚠️ 実際の扱いは、主治医の判断や、地域・審査によって差が出る可能性があります。ご自身のケースについては、必ず主治医・薬剤師にご確認ください。

専門の学会は、この変更に危惧を表明しています

この改定について、日本リハビリテーション栄養学会が、令和7年12月29日付で厚生労働省保険局長・医療課長あてに要望書を出しています。

その中で、低栄養は「医療として管理・介入すべき病態」であるとし、ICD-11(国際疾病分類)において「成人低栄養(Undernutrition in Adults:5B72)」が正式な疾患として承認されていることを挙げています。

懸念されているのは、こういうことです。

  • 経管栄養への逆戻りによる「医原性サルコペニア」の助長
  • 褥瘡(床ずれ)・骨折・再入院リスクの上昇
  • 在宅復帰を妨げ、長期の療養を強いる結果」につながる可能性

また、日本栄養治療学会・日本在宅医療連合学会・日本老年医学会の3学会が合同で、「医薬品経腸栄養剤適正使用指針」(2026年4月14日 第1版)を公表しています。

制度が変わったのは、専門家が全員納得したから、ではありません。 現場が混乱すると分かっていたからこそ、指針が急いで作られた——そう読むこともできます。

だからこそ、「保険から外れたから、もう飲まなくていい」ということには、なりません。

でも、本当の問題は、制度より前にありました

ここからが、いちばんお伝えしたいことです。

訪問看護では、生活の様子をお聞きするなかで、食事のことを必ず尋ねます。 どんなものを、どのくらい召し上がっているか。

その質問への答えとして、いちばんよく返ってくる言葉が、これです。

もう歳だから、そんなに食べなくてもいい

ご本人が言うこともあれば、ご家族が言うこともあります。悪気はまったくありません。むしろ、やさしさや、達観として語られます。

そして——これは、特別な答えではありません。 いろいろなお宅で、何度も、同じ言葉を聞きます。

中年期の「体にいいこと」を、そのまま続けている

もうひとつ、現場で感じていることがあります。

更年期までの、生活習慣病を気にする生活が染みついている方は、そのまま低カロリー・低脂肪を続けています。そこに加齢による食事量の減少が重なる。減らす習慣のまま、量まで減っていくわけです。

実は、健康の常識は、人生の途中で反転します。

目指すこと
中年期 減らす(カロリー・脂質・塩分)=生活習慣病の予防
高齢期 しっかり摂る(とくにたんぱく質)=フレイル・サルコペニアの予防

国の「日本人の食事摂取基準」でも、サルコペニアやフレイルの予防のために、高齢者のたんぱく質の目標量は引き上げられています。

でも——切り替えのタイミングを、誰も教えてくれません。

40代50代で身につけた「体にいいこと」を、80代でそのまま続けている。ご本人は正しいことをしているつもりで、低栄養に向かっている。 そして周りも「もう歳だから」と言う。

そして——むしろ高齢者だから、しっかり食べようという声は、少ないのです。

だから、食べられるうちに、質を上げる

もうひとつ、避けられないことがあります。

加齢と老衰で、いずれ食べられなくなります。 嚥下(飲み込み)の力も落ちてきます。それは、努力で止められるものではありません。

だからこそ、質の良い栄養を、食べられる時に。

これは「たくさん食べさせましょう」という話ではありません。食べられる量が減っていくことを前提にして、その中身を変えるという話です。まったく別のことです。

  • 量を増やす → ご本人がつらい。食卓が戦場になる
  • 中身を変える → 同じ量でも、入るものが変わる

そして、この「中身を変える」ための道具が、栄養補助食品です。

「もう歳だから」と言われたときに、私が返している言葉

とはいえ、正しさが分かっても、親に何と言えばいいかが難しいと思います。「食べなきゃだめだよ」と言えばうるさがられ、「痩せたね」と言えば傷つけてしまう。

私が実際に口にしているのは、こういう言葉です。

歳だからこそ、少ない量で質の高い栄養が必要なんです。 低栄養だと、体が疲れやすくなったり、運動しても筋肉が保てなくなったりします。フレイルとかサルコペニアといって、身の回りのことが、早い段階からできなくなることが問題になっているんですよ。

うまい言い方ではありません。でも、気をつけていることが2つあります。

ひとつは、「もう歳だから」を否定しないこと。

「それは違います」とは言いません。「歳だから」を受け取って、「歳だからこそ」とひっくり返す。 同じ言葉を使うだけで、否定された感じが消えます。

もうひとつは、「たくさん食べて」と言わないこと。

言うのは「少ない量で、質の高いものを」です。量の話をされると、身構えてしまう方が多いので。食卓を戦場にしないための、入口の作り方だと思っています。

そして、いちばん伝わるのは——身の回りのことが、早い段階からできなくなる、というところです。

何を選ぶか——現場で使われている代表例

訪問先でよく見かけるのは、この3つです。どれも1本で200kcal、栄養のバランスが計算されています。

  • 明治メイバランス(125mL)……いちばん広く使われている総合栄養タイプ。ドリンク・ゼリー・アイスなどシリーズが多く、味の種類も豊富です
  • エンジョイクリミール(森永クリニコ・125mL)……シールド乳酸菌を配合。さらっとした飲み口です
  • アイソカル(ネスレ ヘルスサイエンス)……ドリンクのほか、ゼリーや「やわらかいおかず」など、食事に近い形のものも揃っています

どれが良い・悪いではありません。どれも、現場で選ばれているものです。

「少ない量で、しっかり」を選ぶなら

そのうえで、先ほどの「少ない量で、質の高い栄養」という考え方に、いちばん素直に合うものを挙げるなら、こちらです。

アイソカル100 バラエティパック(ネスレ)は、100mLで200kcal・たんぱく質8g。メイバランスやクリミールが125mLで200kcalなので、同じカロリーを、より少ない量で摂れる計算になります。

「もう、そんなに入らない」とおっしゃる方に、コップ半分ほどの量でお渡しできる。これは現場では、けっこう大きな違いです。

そして8種類×各3本のバラエティパックなので、まずいろいろ試して、続けられる味を見つけるという使い方ができます。

⚠️ 持病があって、水分・塩分・たんぱく質などの制限を受けている方は、向かない場合があります。主治医・管理栄養士にご確認ください。

「甘くて飲めない」と言われたら

栄養補助飲料は、甘いものが多いです。「毎日は飲めない」という声を、本当によく聞きます。

エンジョイクリミール いろいろセット(森永クリニコ・125mL×24本)は、8種類×各3本。ヨーグルト・いちご・コーヒー・バナナ・ミルクティー・みかん・くり——そして、コーンスープ味が入っています。

甘いものが続かない方に、しょっぱい選択肢がある。 地味ですが、これはけっこう大きいです。1本200kcalはそのままに、味だけ変えられます。

選ぶ軸は、成分ではありません

比較記事を読むと、カロリー・たんぱく質・価格が並んでいます。もちろん大事です。でも現場で見ていると、続くかどうかを決めているのは、そこではありません。

見ているのは、この2つです。

① 飲み続けられるか

どんなに栄養が良くても、飲まなければゼロです。

訪問先で、冷蔵庫を開けたときに、たまたま見えてしまうことがあります。庫内が暗くなるほど、食品でいっぱいになっているのを。

なかなか買い物に行けないので、まとめ買いや宅配を使っている。けれど、うまく使えなくて。「そのうち食べよう」の、そのうちがやって来ない。 そのまま、庫内で賞味期限を迎えてしまう。

——食べるものが無くて低栄養になっている、とは限らないのです。 買ってある。届いている。それでも、食べられていない。

栄養補助食品も、同じです。買うことは、解決ではありません。

だから、まずは少量、いくつかの味を試すところから。同じ味だけだと、飽きます。「甘くて飲めない」という声も、少なくありません。

② その形なら、口に入るか

これが、いちばん大きいかもしれません。

むせが気になる方には、ゼリータイプです。とろみのあるものは、のどに引っかかりにくく、飲み込むときの負担が違います。

そしてこれは、水分でも同じでした。

ペットボトルだと進まないけれど、パウチに入ったゼリーなら喜ばれる。

この夏、イオン飲料のゼリーがよく好まれていました。中身は同じ水分でも、吸い口から少しずつ飲める形だと、手が伸びる。片手で持てて、こぼれなくて、減りが見える。

何を飲むか」の前に、「どの形なら飲めるか」。ここを外すと、どれだけ良いものを買っても、冷蔵庫に残ります。

傷がある場合は、目的が変わります

ここからは、少し話が変わります。

先ほど、学会が「褥瘡(床ずれ)リスクの上昇」を懸念していると書きました。傷がある方にとって、栄養は治りかたに関わります。

そして、傷がある方のために作られた食品があります。

ブイ・クレス CP10(ニュートリー株式会社)

この製品は、消費者庁の特別用途食品個別評価型 病者用食品」の表示許可を受けています。許可された表示は、こうです。

本品は褥瘡を有する方の食事療法として使用できる食品です

関与成分として、コラーゲンペプチド10,000mg・亜鉛12.0mg・ビタミンC 500mgが配合されています。この表示許可を得ているのは、国内でこの製品だけです(ミックスフルーツ 2021年8月、ルビーオレンジ 2024年3月に許可取得)。

⚠️ ドリンクとゼリーで、許可の区分が違います

ブイ・クレスCP10には、ドリンクゼリーがあります。同じ名前ですが、特別用途食品としての区分が違います。

区分 許可表示
CP10 ドリンク(125mL) 個別評価型 病者用食品 褥瘡を有する方の食事療法として使用できる食品です
CP10 ゼリー(80g) えん下困難者用食品 えん下困難者に適したゼリー食品です

褥瘡のために選ぶなら、ドリンクのほうです。 ゼリーは、飲み込みが難しい方に向けて作られたもの。目的が違います。

——ただ、現場では「飲み込みにくさもある方」が少なくありません。その場合は、ゼリーのほうが口に入ることもあります。傷を診るのか、飲み込みを診るのか。 そこで選び分けてください。

褥瘡のために選ぶなら、こちら(ドリンク・まずは6本のお試しから

大事なのは、メイバランスなどの総合栄養タイプとは、目的が違うということです。

目的
メイバランス・クリミール等 食が細くなった方の、総合的な栄養補給
ブイ・クレス CP10 褥瘡を有する方の、食事療法

「栄養補助食品」とひとまとめにされがちですが、「食べられない人」に出すものと、「傷がある人」に出すものは、別です。

在宅の現場では、歯科の先生から教わることもあります。 口から入るものを診ている職種なので、栄養の情報が、そちらから回ってくることがあるんですね。

⚠️ 持病があって水分や栄養の制限を受けている方は、向かない場合があります。主治医・管理栄養士にご確認ください。

買い方——けっこうな重さです

最後に、地味ですが大きい話をします。

栄養補助飲料は、24本入り、30個入りといったケース単位で買うことになります。これが、けっこうな重量なのです。

毎日1本なら、ひと月で30本。それを、ドラッグストアから運ぶ。買いに行く方も高齢だったり、介護をしているご家族だったりします。

だから、宅配と相性がいいです。玄関まで届く。定期的に届く。買い忘れがない。

保険で出ていた頃は、薬局から届いていました。その役割を、通販が引き受けることになります。

食事そのものが難しくなってきたら

栄養補助食品は「足す」ものです。食事そのものを作るのが難しくなってきた場合は、宅配食という選択肢もあります。

たんぱく質や食形態を選べるサービスの選び方は、高齢の親のご飯問題を解決する宅配食サービス比較にまとめています。噛む力・飲み込む力が気になり始めた方には、やわらか食の宅配も参考になると思います。

まとめ

  • 2026年6月、経腸栄養剤の保険給付のルールが変わりました。ただし「理由を書けば出せる」。まず主治医に相談を
  • 専門の学会は、この変更に危惧を表明しています。褥瘡リスクの上昇も懸念されています
  • そして、制度より前からある問題があります。「もう歳だから」と、中年期の「減らす習慣」のまま量が減っていくこと
  • 食べられなくなる日は、いずれ来ます。だから、食べられるうちに、質を上げる
  • 選ぶ軸は成分ではなく、①飲み続けられるか ②その形なら口に入るか
  • 傷がある方は、目的が違います(ブイ・クレスCP10=消費者庁許可・国内唯一)
  • 重いので、宅配が相性がいい
  • そして——主役は、その人が「おいしい」と言うもの。ともに食べる時間

迷ったときは、担当の看護師・管理栄養士・ケアマネジャー、そして歯科の先生にも聞いてみてください。口から入るものは、たくさんの職種が見ています。

最後に——心にも、栄養を

ここまで、制度のことや、成分のことや、形のことを書いてきました。

でも、最後にひとつだけ。

栄養補助食品は、足りない分を補うための道具です。主役ではありません。

主役は、その人が「おいしい」と言うものです。

栄養価で選んだものを、飲んでほしくて、すすめる。それが毎日続く。食卓が、少しずつ緊張した場所になっていく——そうなってしまったら、たぶん、順番が入れ替わっています。

そしてもうひとつ、ともに時間を過ごしながら食べること。

同じものを、同じ時間に、誰かと。個人的には、これが何よりも大切だと思っています。

カロリーにも、たんぱく質にも換算できません。でも——心にも、栄養は要ります。

ひとりだと、「そのうち」は、なかなか来ません。誰かと食べる約束があると、「そのうち」が「今日」になることがあります。

でも——その「誰か」がいない方も、いらっしゃいます。

その「誰か」が育まれる、社会のしくみが大切なのではないのかなと、感じることが多くなりました。


訪問看護師 みやみー