「お母さん、最近髪が伸びっぱなしだな」 「父の髭を、ちゃんと整えてあげたいけど、もう美容院に連れて行けない」

訪問看護で在宅のお宅にお邪魔していると、ご家族からよくこんな声を聞きます。

寝たきりや車椅子の生活になると、それまで当たり前だった「美容院に行く」ことが、急に難しくなります。でも、髪が伸びたまま、髭が伸びたまま——というのは、ご本人の気持ちにも、ご家族の気持ちにも、思った以上に影を落とすもの。

そんなときに頼れるのが、訪問美容(訪問理美容)サービスです。ご自宅やベッドの上まで、美容師さん・理容師さんが来てくれて、カット・カラー・シャンプーまでしてくれる、暮らしを支える大切なサービスです。

この記事では、訪問看護師として20年、たくさんのご家庭を見てきた私が、訪問美容サービスの使い方を、最初から丁寧に解説します。

訪問美容サービスとは?

訪問美容サービスとは、美容師・理容師さんがご自宅や施設に出向いて、カット・カラー・シャンプー・髭剃りなどをしてくれるサービスのことです。

法律上は、以下のいずれかの条件を満たす方が利用できることになっています:

  • 病気・けが・障害などで美容院に通えない方
  • 出産で外出が難しい方
  • その他、社会通念上、外出が困難と認められる方

つまり、「美容院まで行くのが大変な方のための、出張型のサービス」 というイメージで考えるとわかりやすいです。

ご自宅のリビング、ベッドサイド、デイサービスや特別養護老人ホームなど、どこへでも出張してもらえます。

介護保険は使える?

ここがよく聞かれるポイントです。

結論から言うと、訪問美容サービス自体は、介護保険の対象外です。

訪問看護や訪問介護のように、医療保険・介護保険でカバーされるサービスではなく、全額自己負担 が原則になります。

ただし、自治体によっては、訪問理美容費の助成制度 を設けているところもあります。たとえば、年に数回まで、利用料の一部を補助してくれる制度です。

申請窓口は、お住まいの市区町村の 高齢福祉課・介護保険課 などです。「訪問理美容 助成」+「お住まいの自治体名」で検索すると、情報が見つかることが多いです。

ケアマネジャーさんに相談すれば、地域の制度を教えてもらえることもあります。

料金の相場

訪問美容の料金は、業者によって幅がありますが、おおよその相場は以下のとおりです。

メニュー 料金の目安
カット 4,000〜6,000円
カット+シャンプー 5,000〜8,000円
カラー 6,000〜10,000円
パーマ 8,000〜12,000円
髭剃り(理容) 2,000〜4,000円
出張費(交通費) 0〜2,000円

通常の美容院より、1,000〜2,000円ほど高め に設定されていることが多いです。出張・移動の手間賃が含まれていると考えるとわかりやすいです。

複数人まとめて頼むと、出張費を割り引いてくれる業者もあります。ご家族や近所の方と一緒に頼むと、お得になることも。

業者はどう探す?

訪問美容業者の探し方は、大きく分けて4つあります。

① ケアマネジャーに相談する

これが 一番確実 です。ケアマネジャーさんは地域の事業者をたくさん知っているので、信頼できる業者を紹介 してもらえます。

② 地域包括支援センターに聞く

要介護認定を受けていない方も、地域包括支援センターに電話すれば、地域の訪問美容情報を教えてもらえます。

③ インターネットで検索する

「訪問美容 + お住まいの地域名」で検索すると、地元の業者が見つかります。全国チェーンの訪問美容会社も、各地域に対応していることが多いです。

④ 行きつけの美容院に相談する

長年通っている美容院があるなら、「家まで来てもらえないか」 と相談してみる価値があります。個人経営の美容院では、馴染みのお客様のために訪問してくれるケースも少なくありません。

【参考】北海道旭川エリアでよく耳にする事業者

参考までに、私が訪問看護師として旭川市で活動する中で、ご利用者・ご家族からよく名前を耳にする訪問美容の事業者には、以下のようなところがあります。

  • クローバー
  • たんぽぽ
  • ミューテ
  • レオン

具体的な対応エリア・料金・予約方法は事業者ごとに異なりますので、必ず各事業者に直接お問い合わせください。お住まいの地域のケアマネジャー・地域包括支援センターに相談する のが、もっとも確実です。

当日までに準備しておくこと

訪問美容を頼むことが決まったら、以下を準備しておくとスムーズです。

場所の確保

  • カットする場所(リビング・ベッドサイドなど)に、1.5畳〜2畳ほどのスペース を空ける
  • 床に新聞紙やシートを敷いておく(髪の毛が落ちるため)
  • ベッドの場合は、頭の周りに余裕を持たせる

必要なものの確認

業者によって、持参してくれるものが違います。事前に以下を確認:

  • ハサミ・櫛などの道具(ほぼ全業者が持参)
  • ケープ(ほぼ持参)
  • シャンプー台・水(業者によっては持参 or 自宅の洗面所を使用)
  • ドライヤー(自宅のものを借りる場合あり)

ご本人の体調確認

  • 体調が悪い日は、無理をせず延期する
  • 食事直後・服薬直後は避ける
  • 排泄を済ませてから始めると、途中で中断せずにすむ

仕上がりイメージの共有

  • どんな髪型にしたいか、写真や昔の写真 を見せると伝わりやすい
  • 「短めに」「耳が出るくらい」など、具体的に伝える

訪問看護師として見てきた、訪問美容の本当の効果

ここからは、訪問看護師として20年、現場で感じてきたことです。

訪問美容は、髪を切るためだけのサービスではありません

寝たきりでも、もう一度きれいな髪に

いつも白髪をきれいに染めていらしたお母さま。 寝たきりの生活が続く中で、美容院にも通えなくなり、 白髪がすっかり目立つようになってしまっていました。

「元気な頃のようにきれいでいてほしい」

そう願われた娘さんが、訪問美容を頼んでくださったこと。 カラーを終えて鏡を見たお母さまの、ふっと和らいだ表情を、今でも覚えています。

事故で車椅子に。それでも「イケオジ」のままで

事故で車椅子になられたある方は、ヘアスタイルにまで気持ちが回らない日々が続いていました。 そんなとき、ご家族の 「一度、訪問理容に頼んでみなよ」 のひと押しで、初めての訪問理容。

仕上がりは、若い頃からのトレードマーク通り—— パーマとヒゲの、いつものイケオジ姿

毎月整えてもらうたびに、表情が少しずつ明るくなっていく印象でした。 「整える」を取り戻すことで、その方の中の「自分らしさ」も戻っていく。 そんな時間でした。

施設で、今日は理容師さんが来る日

ある施設で出会った場面です。

「今日は理容師さんが来る日ですよ」 スタッフさんに声をかけられ、皆さんがそれぞれの好みのスタイルに整えてもらう日。

「○○さん、順番きましたよ」と呼ばれて、歩行器でゆっくり向かう後ろ姿。 いつもより、足取りが軽い。 上手に歩いている後ろ姿に、こちらまで、ほっこりしました。


整える、ということは、生きる気力に直結します。

人は、自分の姿が整っていると、「明日も頑張ろう」「会いに来てくれる人を待とう」という気持ちになる。これは、医学的にも知られている 身だしなみケアの心理的効果 です。

家族にとっても、家族の髪や髭が整っていると、心が落ち着きます。「ちゃんとケアできている」という感覚が、介護を続ける力になるのです。

こんな時にも、訪問美容を

最後に、訪問美容を「特別なサービス」と思わず、もっと気軽に使ってほしいケースをご紹介します。

  • 退院前後で、まだ外出が難しいとき
  • ご家族の誕生日や記念日の前に、整えてあげたいとき
  • お写真を撮る予定があるとき
  • 季節の変わり目(夏前にすっきり短く、など)
  • ご本人が「鏡を見るのが嫌」と言い始めたとき

最後のケース、特に注意してください。「鏡を見るのが嫌」 というのは、ご本人が 自分の姿に違和感や悲しみを感じているサイン です。

そんなときこそ、整えてあげる時間が、大きな救いになります。

まとめ|暮らしを整えることは、生きる力になる

訪問美容サービスは、外出が難しくなっても「整える」を諦めない暮らし を支えてくれる、大切なサービスです。

  • 介護保険は使えないが、自治体の助成制度がある場合も
  • 料金は通常より少し高め、ケアマネジャー経由が確実
  • ご本人の表情・気持ちが大きく変わる、「医療的にも意味のある」サービス

「髪を切るだけでしょ?」と思わずに、「気持ちを整える時間」 として、ぜひ取り入れてみてください。

訪問看護師として、20年見てきました。 整えてもらった日の、ご本人の表情を

その表情を、ぜひ、ご家族の手で取り戻してあげてください。

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