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「暑くないよ。エアコンなんて、もったいないから」

離れて暮らす親に電話をかけて、こう返されたことはありませんか。天気予報は連日の猛暑を告げているのに、実家の親は「大丈夫」「昔からこれで平気だった」と言う。心配しながらも、遠くにいると、その先をどう手伝えばいいのか分からない——今日は、そんなご家族に向けてのお話です。

先に、ひとつだけお伝えしておきます。エアコンをつけない親は、がんこなわけでも、あなたの心配を軽く見ているわけでもありません。 年を重ねると、体のしくみそのものが「暑さに気づきにくく」なっていく。それには、ちゃんとした理由があります。まずはそこから、一緒に整理していきましょう。

なぜ、高齢の親は「暑くない」と言うのか

環境省の熱中症予防情報サイトでも繰り返し伝えられていることですが、高齢になると、若い頃にくらべて次のような変化が起きると言われています。

  • 暑さそのものを感じにくくなる(体温を感じ取るセンサーの働きが、ゆっくりになる)
  • のどの渇きを感じにくくなる(「飲みたい」と思う前に、体は水分を欲していることがある)
  • 体にたくわえられる水分の量が、もともと少なめになる
  • 汗をかいて体を冷やす反応が、遅れがちになる

だから、本人にとっては本当に「暑くない」。うそをついているのでも、やせがまんをしているのでもなく、暑さの信号が、脳に届きにくくなっているんです。ここを誤解したまま「なんでつけないの!」と責めてしまうと、親はますますかたくなになってしまいます。まず、この体のしくみを知っておくことが、遠くから支える第一歩になります。

そしてもうひとつ。今の高齢の世代には、「電気代がもったいない」「エアコンは体に悪い」「昔はなくても平気だった」という感覚を、長く持ってこられた方が少なくありません。これは価値観であって、間違いではありません。だからこそ、正論でねじ伏せるのではなく、その気持ちに寄り添いながら、そっと環境を整えるという進め方が、遠回りのようでいて、いちばん続きます。

熱中症の多くは、屋外ではなく「家の中」で起きています

「熱中症」と聞くと、炎天下の運動やお出かけを思い浮かべる方が多いかもしれません。でも、総務省消防庁が毎年公表しているデータを見ると、熱中症で救急搬送される方の年齢で最も多いのは高齢者であり、発生した場所としていちばん多いのは、屋外ではなく「住まいの中」です。

つまり、いちばん気をつけたいのは、外出先よりも、親がいつも過ごしている、あの部屋なのです。

締め切った和室、風の通らない台所、日中ひとりで過ごす居間——エアコンをつけないまま、気づかないうちに室温がぐんぐん上がっていく。夜になっても壁や天井に熱がこもって、寝ている間に体調をくずす。そういうことが、実際に起きています。

だからこそ、離れて暮らす家族にできることの出発点は、「今、あの部屋が何度なのか」を知ることなんです。

離れていても、できる3つの備え

「そうは言っても、すぐには帰れない」——分かります。ここでは、遠くにいても、今日から準備できることを、負担の軽い順に3つ並べます。全部やる必要はありません。できそうなものから、ひとつずつで大丈夫です。

① まずは、部屋の暑さを「見える化」する

いちばん最初の一歩は、温度と湿度が、数字で分かるようにしておくことです。

見やすい大きな文字で室温と湿度を表示してくれる温湿度計を、親がいちばん長く過ごす部屋に置いておく。それだけで、本人も「あら、今28度もあるの」と気づけますし、危険な数字になると色や音で知らせてくれるタイプもあります。最近は、スマホに室温を送ってくれる見守りタイプもあり、離れて暮らす家族が「実家、今日は32度になってる」と手元で気づけるようになってきました。

暑さ・寒さの感覚があてにならなくなっているからこそ、「感覚」ではなく「数字」で判断できる道具が、そっと親を守ってくれます。

(環境省は、室内では室温の目安をおおむね28度以下、湿度を50〜60%くらいに保つことをすすめています。数字が見えるようになると、この目安に合わせやすくなります。)

② エアコンを、離れていても入れられるようにする

「せっかく温度が見えても、本人がつけてくれない」——ここが、いちばんの悩みどころですよね。

そこで選択肢になるのが、スマートリモコンという小さな機械です。今あるエアコンのリモコンの信号を覚えさせておくと、スマホから遠隔でエアコンを入れたり、温度を変えたりできるようになります(お使いのエアコンが対応しているか、設置には家庭のWi-Fiが必要かどうかなど、条件は商品ごとに確認が必要です)。

「実家が33度になってる」と気づいたとき、電話で説得しなくても、こちらからそっとスイッチを入れられる。親の『もったいない』という気持ちと正面からぶつからずに、部屋だけを涼しくしておける——これは、遠距離で見守る家族にとって、大きな安心材料になります。

③ 水分と塩分の備えを、手の届くところに

のどの渇きを感じにくくなっている親には、「飲みたくなってから飲む」では間に合わないことがある——これも、覚えておきたいポイントです。

普段の水分は、お茶や水でかまいません。そのうえで、汗をたくさんかいたときや、食欲が落ちて食事から水分・塩分がとりにくいときの備えとして、水分と塩分をバランスよく補えるように作られた経口補水液を、何本か常温でストックしておくと安心です。冷蔵庫ではなく、親の手が届く場所に置いておくのがコツです。

ただし、持病(腎臓・心臓の病気など)があって水分や塩分の制限を受けている方は、経口補水液が向かない場合があります。かかりつけの医師や看護師に、一度確認してから備えてください。

それから——これは訪問先でよく見かける光景なのですが、飲み物だとなかなか進まない方でも、パウチのゼリータイプなら手が伸びることがあります。吸い口から少しずつ飲めて、少し冷やせば「おやつ」の顔にもなる。ふだんの水分補給の足しとして、ポカリスエットのゼリータイプを冷蔵庫に何個か入れておくのも、いい備えです。

「もったいない」の壁を、やさしく越えるひとこと

道具をそろえても、最後に残るのが親の気持ちです。正論よりも、こんな伝え方のほうが、すっと届くことがあります。

  • 「電気代は私が出すから、つけっぱなしにしてね」(お金の心配を先に外してあげる)
  • 「お母さんが倒れたら、私のほうが心配で仕事にならないの。だから、私のためにつけて」(“あなたのため"ではなく"私のため"に言いかえる)
  • 「暑い日は、涼しい部屋でお昼寝するのが、いちばんぜいたくなんだよ」(がまんではなく、ごほうびとして)

それから——「冷房は寒いから嫌い」「風が体に当たるのがつらい」という親も、少なくありません。これはがまんでも意地でもなく、エアコンの風や冷えを、体が本当につらく感じる方はいらっしゃるんです。その場合、無理に「冷房でしっかり冷やす」を目指さなくて大丈夫。こんな工夫があります。

  • 除湿(ドライ)運転から始める——湿度が高いと汗が蒸発しにくく、体に熱がこもりやすくなります。湿度を下げるだけでも体感はぐっと楽になり、冷房ほど「寒さ」を感じません
  • 設定温度は高め(27〜28度くらい)にする——キンキンに冷やす必要はありません。風向きを体から外して、高めの温度でゆるやかに。「寒いから嫌い」と「電気代がもったいない」、両方の心配がいっぺんに小さくなります

実は国も、冷やしすぎない適正な室温(目安として28度)で夏を快適に過ごす暮らし方をすすめていて、そのなかで「我慢のし過ぎは禁物」「高齢者がいる場合は特に室温管理に注意」と呼びかけています(政府広報オンライン「適正な室温で快適に!クールビズの提案」)。エアコンはぜいたく品ではなく、高めの温度で上手につけるのが、いまの標準的な使い方なんですね。

電気代が気になるときの工夫——フィルターのこまめな掃除、扇風機との併用(冷たい空気を部屋に循環させて、冷房の効率を上げる)、室外機のまわりに物を置かない——は、環境省のクールビズ「家庭篇」にわかりやすくまとまっています。帰省したとき、フィルター掃除をひとつやってあげる。それも、りっぱな熱中症対策です。すぐに帰省できないときは、夏前のエアコンクリーニングをプロにお願いして「贈る」という手もあります。詳しくは離れて暮らす親の家事、誰かに任せられない?に書いています。

「冷房じゃなくて、除湿にしておくね」「28度にしておくから、寒くならないよ」——この言いかえだけで、すんなり受け入れてくれる方もいます。

責めず、心配を押しつけず、「あなたが元気でいてくれることが、私の安心なんだよ」という気持ちが伝わると、かたくなだった親が、案外すんなり受け入れてくれることがあります。

迷ったら、ひとりで抱え込まないでください

最後に、いちばん大事なことを。

もし親の様子がおかしいと感じたら——呼びかけても反応がはっきりしない、まっすぐ歩けない、体が熱いのに汗をかいていない、意識がぼんやりしている——これらは、ためらわずにすぐ119番を考えてほしいサインです。

「救急車を呼ぶほどかどうか、迷う」というときは、救急安心センター事業「#7119」(お住まいの地域で使えるか、事前に確認しておくと安心です)に電話すると、看護師などが緊急度の相談にのってくれます。判断を、あなたひとりで抱え込まなくていいんです。

そして、日ごろの心配ごとは、かかりつけの医師や、訪問看護を利用しているなら担当の看護師に「夏の間、この暑さで心配で」と伝えておくだけでも、気にかけてもらえる目がひとつ増えます。

まとめ

「暑くないから大丈夫」と言う親は、がんこなのではなく、体が暑さに気づきにくくなっているだけ。責めるのではなく、環境をそっと整えてあげることが、離れて暮らす家族にできる、いちばんの支えになります。

  • 高齢になると暑さ・のどの渇きを感じにくくなる(本人は本当に「暑くない」)
  • 熱中症の多くは屋外ではなく「家の中」で起きている
  • 遠くからできる備えは3つ——①暑さの見える化(温湿度計)②遠隔でエアコン(スマートリモコン)③水分・塩分の備え(経口補水液
  • 「電気代は私が出すから」「私のためにつけて」のひとことで、もったいないの壁をやさしく越える
  • 冷えや風が苦手な親には除湿運転や「高め設定(27〜28度)」から。国も「冷やしすぎない室温」をすすめている
  • 反応がおかしいときはためらわず119番/迷ったら#7119。ひとりで抱え込まない

より詳しい予防のポイントや、その日の暑さの危険度は、環境省の熱中症予防情報サイト総務省消防庁の熱中症情報でも確認できます。あわせてのぞいてみてください。

離れていても、できることはあります。「あの部屋、今何度かな」——その小さな気づきが、親の夏を守る、いちばん確かな一歩になります。


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